この連載では、女性、特に単身女性と母子家庭の貧困問題を考えるため、「総論」ではなく「個人の物語」に焦点を当てて紹介している。
個々の生活をつぶさに見ることによって、真実がわかると考えているからだ。
今回紹介する女性は、3人の子どもを育てるシングルマザーだ。ごく一般的な女性だった彼女が、なぜ貧困に苦しむようになったのか。
埼玉県央にあるJR駅。
そこから50分~1時間に1本しかないバスに乗って20分、バス停の奥にシングルマザーの村上尚子さん(45歳、仮名)が居住する団地が広がる。
築50年近くか、外壁は老朽して黒ずみ、すべての郵便ポストはさび付く。現在、18時半。
村上さんは中.学生、高校生の3人のお母さんだ。
勤務先から帰宅した村上さんは慌てて子どもたちの夕飯を作り、“今日、帰りが遅くなるから”と書き置きし、われわれが待つ1階に急いで降りてくる。
「本当に忙しいです。朝5時半に起きて子どもたちのお弁当作って、洗濯して、バスに乗って会社に出社して、夕方の買物をして、ご飯作って、
片付けて、お風呂入って洗濯して、自由になる時間は23時過ぎ。
それでひと息つければいいけど、いつも明日、明後日のおカネのことを悩む。最近はNHKの集金です。もし来たら、どうしよう、どうしようって眠れない日もあります。
こんなこと、もう15年も16年も続いています。生活は苦しいし、希望はないし、毎日死にそうです」
■ 仕事は時給1000円のパート事務
一家が居住する埼玉県営の団地は、家賃月1万7000円。
6年前に知り合いから譲ってもらった軽自動車がある。敷地内の駐車場代は月3000円かかる。
ちなみに、軽自動車は走行距離が12万キロを超えている。
平日は隣市の駅前にある不動産会社に勤める。渡された先月の給与明細“振込額計”は12万1426円だった。
時給1000円、地域のほかの仕事と比べて破格というが、賞与があるわけでなく、年収は150万円を割り込む。
明らかに相対性貧困に該当する年収150万円以下で、老朽した団地に家族4人で住んでいる。
団地に住む世帯の過半数はシングル家庭で、村上さんだけではなく、多くの世帯が同じような貧困に苦しんでいるという。
「子どもが中.学生になると、どうしても食費はかかるので、買い物はもうすごく気を使う。安い店でしか買いません。
コンビニは一度も使ったことがないですし、家族全員で外食もしたことありません。気をつけているのは、日々、無駄はしないことと、買い物する時間ですね。
スーパーなら18時半すぎ。お肉でもお魚でも半額シールが張ってあるものだけ。それは私だけではなく、団地のお母さんみんながしていること。
子どもも半額食材を買うのを見て育っているので、自分でも半額シールのものをちゃんと買ってきます」
世帯の家計をみてみよう。手取り給与は月12万円。家賃&駐車場で月2万円、光熱費月1万5000円、定期代月1万2000円、携帯代3000円×2台。
残った6万7000円に加えて児.童手当2万円、児.童扶養手当5万円、そして2年前から高校3年の長男はアルバイトして2万~3万円を家に入れてくれている。
長男の援助を含めて、月15万7000円で家族4人は暮らす。
子ども3人の生活保護は、おおよそ18万円だ(母子世帯子ども2人の生活扶助基準額の例、厚生労働省ホームページより)。
暮らしは生活保護水準を下回り、現在6人に1人と言われる子どもの相対性貧困率にも完全に該当する。
「今の時給1000円のパート事務も、1年前に探しに探して1000円です。それまでずっと850~900円くらいだったから、もっと生活は厳しかった。
ハローワークは44歳以下で区切りがあって、私は45歳なので多くの仕事は応募する資格すらありません。
正社員とか、手取り20万円をもらえる仕事は皆無です。求人数はたくさんあっても、ほとんどが850~900円の非正規。
さらに年齢的に厳しいので、収入は一生このままか、もっと低くなるかも。
今、中学1年生の下の子が中学を卒業すれば、夜にダブルワークはできるかもしれないけど、今は息つく暇さえないくらい忙しい。シングル家庭の限界です」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160729-00129151-toyo-soci 東洋経済オンライン 7月29日(金)4時0分配信